
こんにちは、Nobuです。
3年前の秋のこと。秋葉原の2ndBaseをふらっと覗いたとき、ショーケースの中にそれはありました。
Super-Takumar 50mm F1.4 前期型。
比較的きれいな個体で、見た瞬間に「これだ」と思いました。値札を確認する前に、もう気持ちは決まっていた。あの感覚、わかる方にはわかると思います。
ただ——当時メインで使っていたSonyのボディとは、どうにも相性が悪くて。アダプターを介してもマニュアルフォーカスがしっくりこず、気づけば防湿庫の中で眠ったままになっていました。
それが変わったのが、Nikon Zfを手に入れてから。
Zfのマニュアルフォーカスアシストの使いやすさに気づいた瞬間、真っ先に頭に浮かんだのがこのレンズでした。K&FコンセプトのM42→Zマウントアダプターを手配して、3年ぶりの実戦投入です。
Super-Takumar 50mm F1.4 前期型とは
旭光学(現リコー)が1960年代前半に製造した、M42スクリューマウントの標準レンズです。
- マウント:M42スクリュー
- 光学構成:7群8枚
- 絞り範囲:F1.4〜F16
- 最短撮影距離:約45cm
- フィルター径:49mm
前期型と後期型の主な違いは光学構成にあります。後期型ではトリウムガラスが採用され、経年で黄変が生じることで知られていますが、前期型にはトリウムは使われていません。黄変のないクリアな素性のガラスで、色調はニュートラルに近い。「琥珀色の個性」を求めるなら後期型、素直な描写を求めるなら前期型、という選び方もできます。
Nikon Zfとの組み合わせ
M42レンズをZfに装着するには、M42→Nikon Zマウント変換アダプターが必要です。今回使用したのはK&FコンセプトのM42-Zマウントアダプター。精度も剛性も必要十分で、コストパフォーマンスは高い。
装着した姿がとにかく良い。
Zfのブラックボディに、シルバーの鏡胴。モノトーンのコントラストが、60年以上前のレンズをまるで最初からセットだったかのように引き立てます。
街に持ち出すと、通りすがりの方に声をかけられることも。「それ、昔のレンズですか?」——こういう会話が生まれるのも、オールドレンズ遊びの楽しさのひとつです。
五反田スナップ:TOCから駅まで
今回の試し撮りは五反田へ。
TOCビルが再オープンしたと聞いて、屋上からの眺めを撮ろうと向かったのですが——屋上は閉鎖中でした。残念。
気を取り直して、TOCから五反田駅までの道すがらをスナップしながら歩きました。

TOCエントランス。発光するサインと手前の暗部——曇天でもシャドウの粘りがしっかり出ている ©Nikon Zf / Super-Takumar 50mm F1.4
あいにくの曇り空で、前期型の醍醐味であるフレアやゴーストは楽しめなかったのですが、それでもZfとマニュアルレンズで街を歩く時間は純粋に楽しかった。
曇天には曇天の良さがあって、コントラストが穏やかな分、シャドウの粘りが素直に出る。光源を探さなくていい分、被写体との距離感や構図に集中できるんですよね。

目黒川。左右対称の構図と水面の反射。曇天の柔らかい光の階調がなめらかに出ている ©Nikon Zf / Super-Takumar 50mm F1.4
TOCを離れて少し歩くと、五反田の古い顔が見えてきます。

「三浦や たばこ」。シャッターのグラフィティと古い看板——街の素顔が凝縮された一枚 ©Nikon Zf / Super-Takumar 50mm F1.4
現代的なビルと昭和の残り香が混在する、この街の奥行きがたまらない。マニュアルフォーカスでゾーンを決めながら歩くと、こういう瞬間に自然と足が止まります。

KOBAN看板と階段を降りてくる人物。偶然の出会いが写真に時間軸を与えてくれた ©Nikon Zf / Super-Takumar 50mm F1.4
実写インプレッション:Nikon Zf + Super-Takumar
開放F1.4——滲みと光の詩
開放では「解像感」という言葉が遠のきます。
ピント面の芯はあるものの、輪郭線がふわりと溶ける。現代レンズのシャープネスとは真逆の描写ですが、街のスナップにこれが不思議とはまります。人の輪郭が柔らかく溶けることで、背景の喧騒が「気配」に変わる感じ。
前期型はガラスの色調がニュートラルなので、開放でも色かぶりの少ないクリアな描写が得られます。光の階調はなめらかで、白飛びに向かうグラデーションが穏やか。
F2.8〜F4——街撮りの「芯」が出てくる
少し絞ると、ピント面に芯が通ってきます。
ボケの柔らかさは残しながら、主題がしっかり立ってくる。この絞り域が街撮りにおいて一番使いやすいレンジでした。光の階調がなめらかで、シャドウに粘りがある。路地の質感、看板の文字——こういうディテールがちゃんと写ってくれます。
参考作例:晴天時の描写(Sony α7IV)
今回の五反田撮影は曇天だったため、晴天時の描写を別日の作例でご紹介します。機材はSony α7IVですが、レンズは同じSuper-Takumar 50mm F1.4 前期型です。

開放F1.4。背景の木漏れ日がふわりと溶け、被写体の輪郭に光が絡みつく。晴天ならではの光の階調 ©Sony α7IV / Super-Takumar 50mm F1.4
開放では背景の木漏れ日が球面ボケとなって広がり、被写体を柔らかく包みます。前期型ならではのニュートラルな色調が、晴天の光の豊かさをそのまま受け止めている。

絞り込んだ域での撮影。扇子のディテールと髪の質感に芯が通りながら、背景はなめらかに溶ける ©Sony α7IV / Super-Takumar 50mm F1.4
少し絞ると、ピント面のディテール再現が際立ってきます。柔らかさと解像感の両立——この絞り域がこのレンズの真骨頂かもしれません。

白い小花と葉のクローズアップ。シャドウに粘りがあり、緑の階調がなめらかに再現されている ©Sony α7IV / Super-Takumar 50mm F1.4
草花のクローズアップでも、葉の質感と白い花びらのグラデーションが豊かに再現されます。光の階調の豊かさが、このレンズの底力を見せてくれます。
Nikon AI-S 50mm F1.4との比較
当ブログでレビュー済みのAI-S 50mm F1.4と、同じ50mm F1.4として比べてみます。
| 比較項目 | Super-Takumar 50mm F1.4 前期型 | Nikon AI-S 50mm F1.4 |
|---|---|---|
| 開放の描写 | 滲みが強く、幻想的 | 滲みは少なく、素直な描写 |
| 色調の個性 | ニュートラルに近いクリアな色調 | ニュートラルに近い |
| 逆光耐性 | 弱い(フレア多発) | 比較的良好 |
| ボケの質感 | 柔らかく溶けるような球面ボケ | なめらかで品のあるボケ |
| 操作感 | 滑らかなフォーカスリング | しっかりしたトルク感 |
| 現代レンズとの距離感 | 遠い(強い個性) | 比較的近い(扱いやすい) |
| 中古価格帯 | 実店舗での中古価格:3万円前後〜 | 1.5万〜3万円前後 |
どちらを選ぶか——私の答えは、
現代的な扱いやすさを残しつつMFを楽しみたい → AI-S 50mm F1.4
オールドレンズならではの描写体験をしたい → Super-Takumar 前期型
この2本、実は補完関係にあります。両方持っていても、撮るものが被らない。
こんな方におすすめ
向いている方
- オールドレンズを試してみたいが、何から始めるか迷っている
- 「完璧な写真」より「味のある写真」が好き
- 夕方や夜の街撮りが多い
- Zfのブラックボディのルックスを最大限に活かしたい
- 黄変のない素直な描写のオールドレンズを探している
向いていない方
- 逆光でもクリアな描写が必要
- 開放から安定した解像感が欲しい
- マニュアルフォーカスに不慣れで、街撮りでAFを多用する
まとめ——3年越しの再会
秋葉原で一目惚れして、Sony時代には持て余して、Zfに出会ってようやく本領を発揮させられた。
このレンズとの3年間は、そういう道のりでした。
Super-Takumar 50mm F1.4 前期型は、「良いレンズ」か「悪いレンズ」かという軸では語れません。現代の光学設計から見れば欠点だらけです。でも、その欠点のひとつひとつが、光と向き合う意識を育ててくれる。
五反田の曇り空の下で久しぶりに使って、改めてそう思いました。屋上には上がれなかったけれど、TOCから駅までの道すがら、このレンズを通して見た街の空気感は、間違いなく特別なものがありました。
このレンズを手に、次は晴れた日の街へ。フレアとゴーストを存分に楽しむその日を、楽しみにしています。
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